どちらかが彼女を殺した / 東野圭吾

東野圭吾の「どちらかが彼女を殺した」の感想などです。
加賀恭一郎シリーズ第3弾。

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あらすじ

愛知県警豊橋署に勤務する和泉康正は妹の園子が自殺に偽装されて殺されているのを発見する。
康正は自分でこの事件を解決するため、警察への証拠を隠し、独自で調査を始めた。
調査を進めていくうちに、少し前までの園子の恋人佃潤一と園子の唯一無二の親友弓場佳世子の二人に容疑者が絞り込まれる。
しかし、重要な証拠を渡していないはずの警察、東野圭吾の数々の作品で探偵役を務める加賀恭一郎が、康正が隠せなかった数々の証拠から真相に迫ってきた。
警察が事件の真相を解明してしまえば、康正は事件の調査から手を引くしかない。
康正は加賀が真相に迫る前に事件を解決できるのか。。。

感想

感想(たしか2000年くらいの時)

いわゆる謎解きや話の進め方としては、東野圭吾にしては珍しく正当派、いわゆる本格ミステリーです。
しかし、この作品が普通ではない点は、作品を読み終えても犯人が分からないこと。
つまり、読者自身が推理を働かせ、犯人を特定しなければならないのです。
謎解き自体はそれほど難しくはなく、正解を聞けばなるほど!と思えるものなので、是非自力で解いてみることをおすすめします。
私はギブアップして袋とじの解説を見てしまいましたが(/_\*)

この作品は普通に楽しめますし、普通の構成だったとしても傑作の1つだと言って良いと思います。 しかし、読者自身が推理できる構成になっているという点で、この作品はただの傑作ではなく、傑作中の傑作だと私は思っています。 ギブアップして回答を見てしまった後の悔しさと言ったら、、、、後悔しないためにも2回くらいは読んでみましょう(^_^;)

ちなみに、初版刊行時には読者からの問い合わせが殺到したので袋とじの解説が付いたらしいです。
そりゃ、最後まで読んで犯人がホントに分からなければ気持ち悪いことこの上ない(^_^;
また、最初の単行本版にはあった推理するにあたって非常に重要な表現が文庫版では削除されているので、文庫版の方が難易度が多少上がっているらしいです。

感想その2(2021/01/01に読み直した)

やはり傑作ですね!
最大の叙述トリック?である、犯人の判定方法ですが、もちろん覚えていて知った上で読み直していますが、危うく見逃すところでした(^_^;)
ホントによくできているな〜
難易度のバランス加減が絶妙です。

しかし、改めて読み直してみると、ある意味探偵役兼犯人役である和泉康正の心情の描かれ方は素晴らしいですね。
警察に任せず、どうしても自分で決着を付けたいという思いがよく伝わってきてとても引き込まれます。
そして、最後の加賀とのギリギリの状態でのやりとりは緊迫感が伝わってきてとても良いですね。

最後がある意味ハッピーエンドになっているところも個人的にはとても良いです。
しかし、最後の最後で和泉康正の役者ぶりを見せつけられるとは。
このシーンは忘れてたな〜

以下多少ネタバレ有り

この作品は基本的に康正の視点で書かれていますので、読者は康正の視点で推理することになります。
つまり、警察が持っていない証拠を持っている状態で推理を開始し、時間が経つにつれて加賀経由でもたらされる警察の持っている情報が付け加わっていきます。
この康正と加賀との駆け引きがなかなか楽しいです。
また、最初に死体を発見した際に記述されていたものをはじめ、ヒントとして出てくる物品、状況は一見大した意味が無さそうなものもけっこうあるのですが、それらが最終的に全て重要な意味をもたらすところはさすがです。
2つあったグラス、2つあった睡眠薬の袋、空のワインボトル、ずれていた絆創膏、用途不明の紐、燃やされた紙、手帳の鉛筆、郵便受けに入っていた鍵、隣の人の証言等々。
1つ1つの意味が解明されていく心地よさが素晴らしい。
しかし、全ての証拠物品の意味が判明した結果、結局容疑者がどちらなのかが全く分からなくなります。
そこで康正とともに、読者は今まで出てきた証拠物品とエピソードをもう一度思い出して推理することになります。

謎解き編 ~完全ネタバレ〜

「すでに回収済みということか」
「俺はこの目でその瞬間を見ていたんだからな」
これらの康正の発言に注目すると、康正が得た最後の証拠、それはついさっきまでゴミ箱に入っていたもの、そして康正の目の前で行われたもの、つまり佳世子が飲んだ睡眠薬の袋でしょう。

そして、「それはならない。誓ってもいい」という加賀の発言から、加賀は確たる証拠(文中で「まだ何かカードを持っていることか」と表現)を元に真相をつかんでおり、しかも自殺ではなく他殺であることが分かります。

では、加賀の確たる証拠とは…

康正が得た最後の証拠からすると、思い出されるのは、当然、殺人現場にあった2つの睡眠薬の袋です。
文中に「園子以外の人間が無意識にした場合、明らかに本人とは違う痕跡が残る可能性があるものが存在する。それは利き手にも大いに関係がある。」と書かれていますが、これがまさに睡眠薬の袋の破り方なのでしょう。
そして、「破壊には必ずメッセージがある」という加賀の発言から、睡眠薬の袋の破り方により利き手が判明できることが思われます。
バトミントンのラケットのテープの巻き方や封筒の破り方で、園子は左利きであることが、康正はもちろん加賀にも既に判明しています。
そして、コードの皮膜が包丁の右側に付いていたことにより、最初の自殺を偽装した人物、つまり佃潤一が右利きであることも既に判明しています。
つまり、殺人現場にあった2つの睡眠薬の袋のうちの1つは佃潤一が破ったことになります。
もしその後で園子が自殺したのであれば、もう1つの睡眠薬の袋は園子が破ったことになり、睡眠薬の袋は、右利きの人間と左利きの人間が破ったものが1つずつとなるはずです。
しかし、実際には加賀は園子自殺は完全否定しています。
このことから、加賀の確たる証拠とは、

殺人現場にあった2つの睡眠薬の袋は2つとも右利きの人間が破った痕跡がある

であり、つまり、、、

右利きの人間が犯人

であると考えられます。
ここで、康正の得た最後の証拠、佳世子が飲んだ睡眠薬の袋をさらに検証します。
佳世子は康正の目の前で睡眠薬の袋を破り、服用しました。
この時、もし右手で睡眠薬の袋を破っていた場合には、佳世子も佃潤一と同様に右利きとなり、康正には犯人は特定できません。
従って、佳世子は左手で睡眠薬の袋を破った、つまり左利きであると推測できます。
よって、犯人は佃潤一であると特定できる、、、が謎解きの解答であると思います。

事件の真相としては、

・佃潤一が自殺偽装をしつつ園子を殺そうとしている時に佳世子が現れた
・佃潤一は、仕方なく一旦は計画を断念し、帰宅
・佃潤一が帰った後も佳世子は後片付けをして、帰宅
・佃潤一が時間を見計らって再度園子の家に行き、殺害し、再度偽装する

となります。

ちなみに、単行本版では、佳世子が左手で睡眠薬の袋を破った、と書かれているらしい。
これなら佳世子が左利きであることは明確なので、「康正が犯人を特定できた」という事実から佳世子が左利きであることを推測する必要はなくなります。
こっちの方が直接的なのでやさしいですね〜

コメント

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